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アーリオ オーリオ(絲山秋子)

袋小路の男

袋小路の男

誰かさんの影響で「私も読書の秋したい」と思って、いつもの図書館で借りてきたのが、たまたまこれでした。小さな図書館なので、流行りの新しい本どころか有名な本さえも少ないのですけど、これは誰かがたまたま取り寄せたのかもしれません。

小説どころか本さえろくに読まない私が、芥川賞作家の絲山秋子さんの名前を知ったのは、だいぶ前の朝日新聞のbeの逆風満帆の記事ででした。
(上)http://www.be.asahi.com/20060311/W14/20060302TBEH0010A.html
(中)http://www.be.asahi.com/20060318/W14/20060308TBEH0005A.html
(下)http://www.be.asahi.com/20060325/W14/20060314TBEH0009A.html

最初の2本、「袋小路の男」「小田切孝の言い分」。読んでて登場人物達にイライラしました、「もっとはっきりしろよ!」って。結末で二人の関係に何らかの決着がつくわけでもなし…。だめだ、私に小説や純文学は楽しめないんだ。なんだか落胆しました。

そんな感じでやる気をなくしたところで手をつけた最後の「アーリオ オーリオ」。読み進めてみて(別な意味で)驚きの連続でした。主人公の男が、姪の中学生と池袋サンシャインプラネタリウムに出かけるのです。全くの偶然です、星が題材の小説を手に取ったなんて。そして姪っ子が星に興味を持つだけでなく、このおじの男も実は星や宇宙にもともと興味があるとか。この男は休みの日には友達と、ぐんまの天文台に出かけて望遠鏡で星を見たり、CCDカメラで銀河撮影などするのを趣味としてるのです。講習会を受けたんですか〜。すごい!(って、架空の人物なんですけど)

それって「ぐんま天文台」そのまんまじゃん! 後でプロフィールを読み返しましたが、絲山さんは高崎にも長く住んでらっしゃったことがあったそうです。なるほど。

そして男は、姪っ子と手紙のやりとりをしながら、お友達とちょっと違うという姪っ子の心の変化や、さらには、40歳近くになっても結婚もせず、希薄な人間関係しか持たない自分のことも、宇宙のことになぞらえて考えるのです。

もちろん、何かしらのハッピーエンドも決着もありません。二人の関係も、ただのおじと姪だけれども、何かそれ以上の信頼関係がありそうで…。よくわからん? でも、ここまで読んで、そして、上のbeを読み返して少し見えた気がしました。関係なんてはっきりしない、あいまいでいいし、現実だって何でもかんでもはっきり決着がつくわけでもない。そこのところを、読んだ人がどう考えるか、自分に眠っている何かに気付くか、ということが大事なような気がしました。

いつも心に置いてるつもりですが、科学を伝えるということは、科学的事実や生活に役立つ(リスクをもたらす)ことばかりを扱うのではありません。特に、もともとの専門の天文なんかは、まるで生きることにすぐに役立つものではありません。けれども、こうしうて何か、人々の気持ちをゆさぶるのです。つい、何か考えてしまうのです。

宇宙のことに(まるで関係ない)自分の生き方、考え方を重ねてみたこのお話。重ねることなんて科学的には見当違いであっても、自分にとって何か発見があるかもしれない。何かに気付いたり、何かを感じたり。そんなふうに心を動かしてくれるのが、実は、一見何の役に立たない、夜空に輝く星たちの、科学技術によって解明される真の姿だったりするのかもしれません。